「2008年7月5日(土)」の日記
朝10時平針を出発。久々の一人旅。10年ぶりくらいに新幹線に乗る。それにしても速い。窓の外の風景はビュンビュンと過ぎていく。正直言って、速すぎて怖い。飛行機が離陸するために加速している瞬間が、ずっと続いている状態。緊張しっぱなし。飛行機は離陸時こそ怖いが、その後はあのなんともいえない解放感、旅へと解き放たれた感覚が好きだし、空港とか機内とかは僕がかなり好きな場所の一つ。それに比べて、新幹線の速すぎて楽しみにくい車窓からの風景、車内の内装のつくりの雑さ、味気ない名古屋駅と駅員たちのイマイチな接客。地上を走るハイテク新幹線は、ジェット航空機の足元にも及ばない。電車は、カタン、カタンと走るローカルな列車に限るな。
12時、新神戸駅着。タクシーで兵庫県立美術館へ。新幹線とタクシーを使ったため、あっという間に美術館に到着。約2時間前には名古屋市の自宅にいたのに。ここに来た目的は2つ。一つは大学時代の先生、川崎和男と、今売れっ子脳科学者の茂木さんの対談を聴くため。もう一つは、このところ興味を持っていたアーティスト、横尾忠則の大きな展覧会が開催されていて、それを見に来た。今回は時間が限られていたため新幹線とタクシーなんて乗ってしまったが、これだけの交通費かけてでも来てみたかった。
13時半、川崎先生と茂木さんの講演。テーマは音楽。ミズキ、カワセ、エッちゃん、チハヤんも来ている。2年ぶりに話す。元気そう。創チャンにも挨拶。川崎先生のプレゼンの最初の画面には「私の「いのち」にはビートルズの響きが耳鳴りになっている。」からはじまる言葉。ビビった。まさに自分がこの会場に来る途中で、頭の中でビートルズの曲が流れていて自分のつくるものにビートルズの影響が出てくるかも、と考えていたところだったので。来て正解だったと思った。で、プレゼンはいつもどおりかっこいい映像と音楽ではじまる。川崎先生の話はいつも刺激になる。茂木さんとの会話はある意味面白かったけど、音楽に関してそこまで新しい話は得られなかった。とにかく、音をたくさん聴こうと思った。
みんなと別れ、その後、横尾忠則の展覧会へ。こっちの方がすごかった。実は。こんなふうに書くと変に誤解されそうだけど、横尾さんの絵で、僕が描いた絵と似てるものもあったりしたし、素直にいろいろ共感できる部分はあった。おもしろい。去年は、若冲展が金賞だったが、今年は横尾忠則展が金賞だな。個人的に。で、お土産コーナーで買いまくってしまいました。ポストカード、本、本、本、あと腕時計も。帰りのタクシー代と新幹線はあきらめ、買う。さいふ残金、3970円。ま、どうにか帰れるだろ。夜8時、美術館をあとにする。
新幹線をあきらめ、夜8時。時間的に間に合うのか、そもそも名古屋までお金が足りるのかいささか不安になる。JR灘駅で駅員のおじさんに尋ねる。調べてもらってぎりぎり鈍行で間にあうらしい。切符は3890円らしい。ホントにぎり。ホントに感謝。って言ってたら、おじさん、「あーそうこうしてるうちに、たった今電車行っちゃったよ。」とのこと。いや、それはチョッとやばくないですか。高速バスとか調べても、明日朝までないらしい。「マアとにかく次の電車で行けば、芦屋駅の乗り換えが間に合うかもしれない」と言うおじさんを信じることにした。でも、間に合わないかもしれないから買うのは大阪までの切符にしといた方がいいね、だって。言われたとおり大阪行き390円の切符を買う。間に合うか、一分一秒を争う状況。
とりあえず、さっき展覧会で買ったばかりの、横尾忠則の腕時計を取り出し、つける。
もし間に合わなくても、明日日曜日の昼に帰れればいいから、ファミレスで頑張り明日の高速バスで帰れるだろうし、横尾忠則展を見たんだからこんな困難なんとでもしてやろう、とわけわからず意気込む。15分後、芦屋駅着。向かい側に、米原行き電車。どうやら間に合ったらしい。これで、米原で名古屋行きに乗リ、帰れる。一安心、なはずだった。が。
乗り換えに間に合った電車の中で考える。何かせねば。こんなもんじゃない。つまり、このまま帰りたくない。もっと面白いことを。という、気持ちが消えない。横尾効果だろうか。そして社会人になっての反発もあるんだろうか。つまり、乗り遅れるか、お金が足りなくなるくらい、なってしまった方が、おもしろいことになったんじゃないか、と思う。しかも、一人旅だから、その考えを誰も止めてくれない。
自分はどうしようもないバカらしい。大阪駅に着いて、その、名古屋帰宅コース電車を、降りてしまった。その最終電車を、飛び降りたのだった。
予定外の、大阪駅着。完全に、予定は未定、状態。ひとまず、切符売り場で、明日朝一番の高速バスの値段を聞く。2900円。買える。購入。残金、700円。ちなみに銀行のカードは家に置いてある。もちろん、明日朝まで厳しい。こうなったら、あれに挑戦するしかない。大道芸。で、稼ぐ。って、ここは本場、大阪か。大丈夫か。駅周辺はそういうことやれる雰囲気ないし。あれこれ考えつつも、ちゃっかり安く過ごせるファミレスも探しつつ、梅田の街を歩く。まだ9時過ぎで人は多い。しかし、自分が探す、700円で明日まで生き伸びる場所はなかなかない。結構、必死です。でも、おかげで街の見え方は違う。いろんな人がいる。ビルの鏡のようになったガラスの前で音楽かけダンスする若者たち、徹夜覚悟で明日のバーゲンの列に並ぶ人、中央分離帯の0円ハウスに隠れに行くホームレスの人。
もう少し明るい雰囲気の街、そしてファミレスみたいなのがある場所へと、地下鉄でなんばへ行くことにする。地下鉄代、片道230円。明日、梅田へ戻らなければいけないので、往復で460円。これで残金340円。しらふなのに、よくやるよ。意味不明としか言われなさそう。と一応は客観的にも考えている。いや、ホントはかなり必死に考えているから不安もデカい。だけど、あるのは、とにかく何かはわからないけど何かやらねばという気持ちだけ。
道頓堀周辺を歩く。やっぱりこの街は明るい雰囲気。イタリアに通じる。いい街だ。歩いていると一度来たことがあるのを思い出す。昔、大学の先生が、映像は「言葉」にすることで記憶できる、と言っていたが、僕はそれだけじゃないと思っている。僕は、映像をそのまま映像として記憶している気がしてならない。コンビニで麦酒一本購入。150円。残金、170円。アーケードの路上に自分の描いた絵を広げている同い年くらいの青年がいて、話す。北海道から来たそうで、よくこうやってで絵を広げ、売っているとのこと。終電もなく、時間は無限にあるのでいろいろ話す。今日見た横尾さんについて、ピカソについて、絵を好きでいたいという話について。青年は、今日はAM3時くらいまでここにいるとのこと。途中、自分は本屋に行く。雑誌でたまたま、サカグチさんの文章を発見、読む。ちょうど路上について書いていた。「On the road」とか「In the Club」とか言ってて、自分とかぶる。絵を描く青年のとこへ戻り、今日買った横尾さんの本見せる。そして。自分はそのアーケード下で、一発芸やジャグリングを決行。さすが、見ているのは大阪人。つっこみもうまい。そのおかげもありいい感じ。終わって、ちゃんと、袋置きました。驚いたことに、「紙」のお金が数枚。ビビった。いいんすか?大阪人、あざす。いや、おおきに。感謝感激。危機的貧乏状況脱出。なんか占い師と名乗るおじさんも現わる。僕の手を見て、君は将来成功するとのこと。基本、僕は占いとか全然信じない人だけど、今日のこの言葉だけは覚えてときます。おじさんもお元気で。3時近くになり絵描きの青年は友人の家にいくとのこと。お元気で。自分は、やっと夕食。ヨシ牛でも、旨い。感動。飯にありつけました。大阪なんば、感謝。
明日朝の出発まで、ネットカフェで今日の日記とスケッチを書き2時間ほど仮眠。少しリッチになってしまったな。あの時、大阪駅で電車を降りたのが、ずいぶん前のように感じる。
6時半起床。今から梅田に向かえば、朝一の名古屋行きの高速バスには間に合いそうだ。
少し時間があるので、昨日のアーケードを通ってみた。
建設現場の鉄板が並んでいる。その鉄板の隙間から、朝陽がもれ、光の筋が幾重にも輝いていてキレイだった。